「テクノロジー」と「感性」で次の健康・美容を(国立研究開発法人 理化学研究所  桜田 一洋氏)

インタビュー

〈インタビュー〉国立研究開発法人 理化学研究所 医科学イノベーションハブ推進プログラム副プログラムディレクター 桜田 一洋氏(理学博士)

with コロナ、after コロナ時代の健康、美容産業への期待は大きい。いま健康・美容は、より個別に(パーソナライズ)を目指し、一人ひとりの多様な「個性」に着目する時代へ進み始めている。個性としての病気、個性としての健康や美容とは何か。新たな時代に向けて、産業は何を備えるべきか。理化学研究所の桜田一洋氏に話を聞いた。

いま美容・健康サービスの課題は?

2020 年は正に「健康」であることの大切さと難しさを実感した年でした。WHO では健康は身体的、精神的、社会的に満たされた状態とされています。今、感染防御という身体的健康のため家の中に居る行為は、人によっては精神的に大きなストレスですし、別の人にとっては社会的健康である経済的基盤への影響も無視できません。「健康」の意味が一人ひとり異なっているということです。
また、COVID-19 は人によって軽症から重症まで症状が複雑で、医療の専門家でなくても病気にも「個性」があると感じたのではないでしょうか。誰にでも効く健康サービスは大事な第一歩ですが、これからは、加えて一人ひとりの個性に基づいたソリューションが必要になっていくでしょう。その個別化したサービスをどういうシステムで個々に届けるかが次の時代の健康ビジネスのカギなのです。
今の「健康」は健常(ノーマル)か異常かで語られることが多いように思います。健常、正常の基準はだれが決めたのでしょう。本当に不健康は悪いのでしょうか。肥満だと何故いけないのでしょう。人間性に基づく健康は多様性を認めるもののはずです。基準で決められた健康から自立して一人ひとりの「個性」に目を向けることが必要です。つまり、自分自身の健康や不健康の発見です。
「個性」は、既に「在る(Being)」ものでなく、「成る(Becoming)」ものだと言えます。「在る」とは、機械のように変化しないこと。もし人の発生、発達、成長、老化が遺伝子プログラムによって予め決まっているのなら、設計図通りに機械を製造するのと同じです。しかし自然や生命や人間は多様で、どう生きて来たかという経験の積み重ねで変化します。過去の積み重ねがあって今の健康・美容が生成されて、未来はこれからの積み重ねで実現します。こうした「個性」の「成る」をサポートする個別化サービスで寄り添うことが必要になっていくでしょう。IoT でエレクトロニクスと今の健康・美容商品とを結びつけるサービスです。

今年のビジネスの動向は?

多様な美容・健康に応えるためには個人の心身のタイプごとに信頼できる情報を提供するプラットフォームが必要になります。求められているのは、個人の「個性」や「状況」に応じて問題の発生を予測し防いでくれる情報です。AI(人工知能)の助けを借りて見落とされそうな事柄も拾い上げパターンを見つけて「個性」を可視化することです。
顧客の生活の中にセンサーを埋め込んで文脈を読んで予測し要求や困りごとに先回りすることもできます。ただ、暮らしや行動の中に入り込んでくるサービスですから、無意識の内に誘導されるかもしれないと違和感を覚える方もいるでしょう。自分の健康と美容情報は、あくまで自分が保有していて、アプリなどで必要な時に自分に合ったサービスや商品を探して自由に選ぶことが、より健全なサービスと言えるでしょう。例えば、センサーなどからの個人データを統合し匿名化し解析するプラットフォームがあって、健康・美容企業は、顧客のオーダーに応えて層別化された情報から個別化サービスを開発し提供する仕組みです。

目指す健康・美容サービスの姿は?

IoT の流れを整理してみると共通していることがあります。それはPC やスマホに加えロボットやアバター、AR(拡張現実)などのテクノロジーが次々と登場して、「便利」の追求をする一方で、対面でのコミュニケーションを支援するような「感性」に訴える二つの面があることです。
例えば、化粧には、肌状態をよくする物理的な効果を提供するスキンケアと、心を晴れやかにして他者とのコミュニケーションを補うメイキャップという両面があります。このように、「道具」としての支援と「感性」を支援する二つの面をサービスに織り込むことが実は重要だということです。機能だけでなく、「感性」を強く訴求することが「日常を魅力的にする」ことに繋がっていくのでしょう。これからのビジネスには欠かせないことに思います。
さらに言えば、便利、効率、合理性、自己の名誉といった自分が描いた世界を実現する「見たいものを見る」ことだけでなく、相手の心や、自分の未来、自然に価値を見出すといった「見えないものを見る」という社会的な価値が重要になってきたのだと思います。我々が長寿社会を生きるために大切な「協創」へのヒントがあるはずです。きっと、次代の健康、美容サービスが生まれてくるでしょう。

さくらだ かずひろ
バイエル薬品の執行役員などを務めた後、2008年よりソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。2016年から理化学研究所医科学イノベーションハブ推進プログラム副プログラムディレクター。理学博士。近著「亜種の起源 苦しみは波のように」(幻冬舎)が話題に。

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