「Jウエルネス」が街や暮らしを変える① 

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2019年の訪日外国人客数は、過去最高の3188万人だった。爆買いやオーバーツーリズムといった急拡大による弊害も出てくる一方で、2020年のオリンピック・パラリンピックイヤーには4000万人を超えて、次は6000万人へと、我々は明るい未来を信じ込もうとしていた。しかし訪日外国人客数の伸びは次第に鈍化していった。

そこで浮き彫りになってきたいくつかの課題は、リピーターは60%を超え、消費は買い物から体験型へ移行していること、東京・箱根・富士山・京都・大阪を巡るゴールデンルート観光から日本らしい文化が残る地方へと旅先も変化していること、また、リピーターになるほど個人消費も増え、欧米客は増し、滞在日数も増える傾向だった(観光庁調べ)ことだ。次へのステップは間違いなく「量から質」への転換。そして、インバウンドビジネスの見直しだった。

3・11(2011年東日本大震災)以降、我々は、それまでの「より高く、より大きく、より速く」といった効率や生産性を追い求める働き方や、高度な情報化の中のストレスフルな暮らしに疑問を感じ、本当にこのままでいいのか、次の世代のためにできることは何か、と自問の時を過ごしていたように思う。

2010年代も後半になると、国は、生涯現役、健康経営、健康寿命延伸、人生100年時代を謳い、一方で、超スマート社会に向けた「Sociaty5.0」(※2)を示して、 DX、SDGs、スマート農業、AIのヘルスケア、スマートシティ、地方分散型社会、多様性、働き方、次の人材と教育などへの絵を描いた。巷では、書籍「WORK SHIFT」「LIFE SHIFT」「(著リンダグラットン)が注目を浴び、SDGsやサスティナビリティが女性誌をはじめ多くのメディアで話題となり、人生100年の働き方や生き方、周囲や職場といった社会との関り、環境との関りを見つめ直す機運がゆっくりとだが高まっていった。

それが、20年のコロナ禍によって一変した。「こうなるだろう」、「こうなるべき」と考えていた遠くの未来が目の前に迫ってきた。世の中は一気に動き始め、特に、オンラインの活用は、距離を超え、暮らしや働き方を著しく変化させた。皮肉にもコロナ禍が未来への扉を押し開けることとなったのだ。

※2 Sociaty5.0 は「サーバー空間とフィジカル(現実)空間を高度に融合させたシステムにより経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会」と定義。国の第5期科学技術基本計画において2016年提唱された。

 

 

 

 

今年22年5月の世界経済フォーラムで、「旅行・観光開発ランキング」において初めて日本が一位に選ばれた。日本の安全・清潔、豊かな自然や文化が世界に注目されている。

日本の魅力とは何か。それは、食や温泉の伝統文化、四季のある自然、なにより、安全で清潔な街、日本人の優しさ、勤勉さ、交通機関の正確さ。あるいは、日本の美容や健康、長寿への憧れかもしれない。日本が大好きで何度も訪れて各地を旅しているある家族は、先端テクノロジーと伝統文化、高層ビルの都市と長閑な山村風景とが共存する多様さが魅力と指摘した。

2018年5月、大分県の別府市で開催された「世界温泉地サミット」には世界各国からウエルネスや温泉の専門家や研究者が集結した。ここでも、日本の魅力の一端が語られた。集まった専門家たちが、口々に「ウエルネスの次(ポスト・ウエルネス)のヒントは日本にある」と語ったのだ。消費が精神的価値重視に向かっている時代に、その受け皿として温泉地に期待が高まっているというのだ、そして日本にも。どうやら日本には、ウエルネスの道標があるようだ。

その会議のために来日したイタリアのアバノ・モンテグロット温泉ホテル協会の元会長マッシモ・サビオン氏(※3)にインタビューを試みた時、「日本の魅力は?」の問いに、マッシモ氏は大分県竹田の温泉に滞在中に出会った畳作りや、石川県山中温泉で機織りを見たときの感動を語ってくれた。半日も見とれてしまったと言う。温泉地のそぞろ歩き、地域の人との心休まるふれあい。50回以上も日本に訪れた経験からのこそ言葉だ。ところがインタビューの最後に「日本の本当の豊かさに日本人が気づいていない」と苦言を呈した。翌年来日したドイツのフライブルグ大学医学部教授ヨハネス・ナウマン氏(※4)は、まず、日本の街の清潔さ、交通機関の正確さ、人々の礼儀正しさに触れた後、食事や温泉がどこも個性的で温泉地には心の健康保養の可能性を感じたと語ってくれた。何より雪景色を眺めながら浸かった川湯での自然の一部となったような体験は忘れられないと。

彼らが魅力と見ているもの、またその先にある「ポスト・ウエルネス」とは、我々の目指すべき日本のウエルネス「Jウエルネス」の姿ではないだろうか。海外からの日本への期待は日本流のこうしたアナログの中にもあるように思えてならない。それは、訪れた人を包み込む四季のある自然、多様な地形、街並み、情景、そこで暮らす人々。そして、相手の気持ちや考えを察し心遣いでもてなすウエルネスの空間、時間なのだ。いわば、日本が持つパーソナライズの力だと考えた。

※3マッシモ・サビオン氏 Massimo Sabbion(マッシモ・サビオン)
アバノ・モンテグロット温泉ホテル協会元会長、元アバノ市副市長、プレジデントホテル・テルメ元オーナー。現在は、丘隆地に心身の健康を回復できるB&Bを開業。ポスト・ウエルネスとしての温泉と自然の力の可能性を模索する。(2018年インタビュー当時資料)
※4ヨハネス・ナウマン氏 Prof.Dr.med.JohannesNaumann(ヨハネス・ナウマン)
ドイツフライブルク大学医学部教授/バートクロツィンゲン市VITA CLASSICAクリニック所長(専門分野 保養地医学全般、温泉療法)。7年間温泉医学の研究に取り組んでいる。1月27日来日、岡山県湯原温泉、鳥取県関金温泉、熊本県菊池温泉、大分県長湯温泉・別府温泉、鹿児島県霧島温泉などを訪れた。第85回健康と温泉フォーラム月例会で講演「グローバルサーマリズム~日独温泉共同研究の挑戦」。(2019年インタビュー当時資料)

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